2020年『M-1グランプリ』優勝を果たし、
一躍スターダムにのし上がったマヂカルラブリー。
だが、その華々しい栄光の裏には、
**“すれ違いと衝突の連続だった10年”**があった。
コンビとして順調に見えていた彼らは、
実は何度も“解散寸前”まで追い込まれていた――。
本人たちが語った“本音”から浮かび上がるのは、
全く違う価値観を持った2人が、信じる笑いを貫くために選んだ、不器用な道だった。
目次
出会いは「文化祭ノリ」だった
マヂカルラブリーの2人は、**早稲田大学お笑いサークル「お笑い工房LUDO」**で出会った。
当初から、お笑いに対する温度差は明らかだった。
野田クリスタルは高校時代からR-1に出場し、
ゲーム制作までするほどの“超ストイック芸人”。
一方で、村上は「お笑いがやりたい」という熱よりも、
“サークルの雰囲気が面白そう”という理由で参加した軽めのノリだった。
このギャップは、
後の関係性にも少なからず影響を及ぼすことになる。
売れない下積み時代と“温度差”のすれ違い
2010年に結成。
だがすぐに芽が出るわけではなかった。
ライブでウケない日々、
先輩芸人に怒られる日々、
劇場に立っても誰からも名前を覚えてもらえない現実。
そんな中、野田は**「もっと面白いことがしたい」**と
ネタ作りに没頭し始める。
対して村上は、
「俺はもっと目立ちたい」
「舞台よりテレビに出たい」
と、ネタ以外の方向にも興味を持ち始めていた。
この頃から、2人の間に“笑いへの方向性”で
はっきりとしたズレが生まれていった。
ある日、野田がこう口にする。
「お前と組んでてもダメかもしれない」
村上はそれに対し何も言い返さず、
2人の間に長い沈黙が流れた。
野田の孤独な創作、村上の悩めるポジション
M-1優勝前の数年間、
野田は1人でR-1やゲーム制作に没頭していた。
「野田ゲー」は賞を受賞するほどの評価を受け、
“天才肌”のイメージが強まっていく。
一方で、村上は“相方の引き立て役”になっていく自分に、
どこか納得できない思いを抱えていた。
「俺って必要なのかな?」
そんな気持ちが強まっていた時期、
村上は野田の陰に隠れる“その他大勢”のように感じていたという。
それでもコンビを続けたのは、
「辞める理由よりも、やる理由のほうが微かに大きかったから」と村上は語る。
M-1優勝前夜の本音「お前とじゃなきゃ無理だった」
2020年、マヂカルラブリーは3年ぶりにM-1決勝に進出。
結果、異端とも言われた電車ネタで優勝を果たす。
だがその前夜、2人は久しぶりに長く話す時間を持ったという。
野田は静かにこう語った。
「俺、1人じゃここまで来れなかったよ」
「どんなにズレても、村上がいたからネタが成立した」
村上は泣きそうになりながら、
「そんなこと初めて言われた」と返した。
それまでの10年間、
互いを必要としていながらも、
素直にそれを言葉にできなかった2人。
“解散危機”という言葉の裏には、
お互いの才能を信じていたからこそぶつかっていたという事実があった。
今でも2人は“噛み合っていない”。でも――
現在、テレビ・劇場・ラジオに引っ張りだこの2人。
だが番組やラジオを見ていると、
今でもどこか“絶妙に噛み合っていない”瞬間がある。
野田がボケても村上が拾えない。
村上が話し始めても野田が聞いていない。
それでもそれを“武器”として見せる空気感が、
逆にコンビとしての個性になっているのだ。
「10年間、何回も終わると思った」
と語る2人。
でも、終わらなかった。
いや、終わらせなかったのだ。
まとめ
マヂカルラブリーは、
“相性がいい”というより、
“違うからこそ組んでいる”コンビだ。
-
野田は創造と努力の化け物
-
村上は場の空気を読む調整役
笑いへの価値観も、テンポ感も違う。
だが唯一共通しているのは、
「面白いことをやりたい」
というシンプルな情熱だけ。
だからこそ、すれ違いながらも、
何度も分かれそうになりながらも、
2人は10年を超えてコンビを続けている。
“解散危機がなかったと言えばウソ”。
だがその危機を乗り越えたからこそ、
マヂカルラブリーは、唯一無二の“今”を築けたのだ。